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「山ねずみロッキーチャック」

全 52 話。dアニメストアにて。
親元の巣を離れ、森で一人暮らしを始めた山ねずみの ロッキー を中心に、森に暮らす動物たちの日々の交流などを描いた作品。「SHIROBAKO」に出てくるパロディー作品『山はりねずみアンデスチャッキー』で気になったので、元ネタをちゃんと知っておこうと思い、観た。
アンデスチャッキーアンデス山脈が舞台になっているけど、この作品はロッキー山脈とは全く関係ない。『ロッキーチャック』は単純に山ねずみの名前でしかない。
しかしこのタイトルで、紹介文でも ロッキー が中心とされているけども、実際は ロッキー が物事の中心に居ることはあまりない。主人公と言えるかどうかも微妙。ロッキー がほぼ出てこず話に絡みもしない話数も幾つかあるほど。どちらかと言えばうさぎの ピーター の方が主人公っぽい。けど、そいつを主人公にしてしまうとタイトルは劇中での呼称から「ピーターうさぎ」となり、これは版権的にアレだろうし、ここで見られる 永井一郎 演ずるうさぎ野郎は全然可愛くなく、愛すべきキャラクターとも言い難いので、当たり障りのないところで ロッキー を主人公とし、このタイトルが妥当なとこなんだろう。

話は一話完結型で、毎回何らか事件が起きたり誰かが何かを起こしたりして、それをみんなでどうにか解決させてワッハッハッハで終わる、のを繰り返していく感じ。自然の森が舞台で一年4クールに渡る作品なので段々と季節が移り変わっていって、最後は真冬になって冬眠に入って終わるのだけど、「アンデスチャッキー」の方で垣間見えたような、冬山で行き倒れかけたのを救われてベソベソー!みたいな激しくドラマティックな話は無い。むしろ、現実の自然の営みの中で見られる、異種動物同士の諍いや助け合いを擬人化して表現したような、生き抜くために切実だったりシビアだったり重かったり、という展開の方が多い。その点では見入るところがあるのだけど、まあまあそれでも子供向けを意識して作られているので、なんつうか事の突き詰め方とか解決の仕方が甘いというか中途半端というか、いやそれもしかしそういう時代のアニメだから仕方がないことだけど、感触としては結果的につまらなく映る話が多かった。
現実にいじめとか仲間外れを助長しかねない演出が多いのも気になった。キツネの レッド やカケスの サミー ほか、嫌われ者として扱われる動物たちへの仕打ちが、時に極端に酷くて胸糞悪くなることもあった。たぶん今の放送倫理に照らし合わせると脚本段階で NG になると思われる部分もかなりあるはず。ただ、いじめたり仲間外れにしたり愚行をみんなで笑ったり、することはするんだけど、大概は最終的にそんなことは駄目だよねっていうところに着地するので、そこまでしっかり見られれば教養として悪くないものなのかなとも思えなくもない。そんな時こそ ロッキー が森の良心としてみんなを諌め戒めるので、さすが主人公、と思えるところもある。

SHIROBAKO」で言うところの『杉江三日伝説』みたいな神掛かった作画シーンなどは特に見られなかった。あったのかもしれないけど、例えば「ここは一日で仕上げました」と言われなければ気づくわけもなく。でも、動物たちのそれぞれ動物らしい動きや細かいしぐさは、かなりこだわって描かれていると思った。特に鳥類に関しては、羽の動かし方、尾の振り方、飛び方を、各鳥ごとに描き分けてあるようで、プロの仕事の凄みを感じた。たかだかコンドルが飛び立つだけのシーンを1分くらい使ってじっくり見せたりするのもおもしろかった。
意外だったのは、演出クレジットで「富野幸喜」の名が見られたので調べたら、まさかの 富野由悠季 その人。それを気にしつつ観ていたら、なるほどシビアな話数やバトルっぽいことがあったりカメラワークに凝った感じの表現が入る時は、だいたいその人の演出回だった。
他には、漠然と、キツネのレッド ってもうオオカミでいいじゃないか、と思ったり。でも、みんなの大敵たるキツネでも、さらにその上の脅威となるコヨーテやオオカミが居て、ヒエラルキーにおける一段上の存在に過ぎないってことを描くために、そうなったのかな、とも思ったり。
それから「カケス」とか「テン」っていう動物がいるってことは、この作品を観るまで生まれてこの方全く知らなかった。一口に「ねずみ」と言っても何種類も居て、それぞれ生態が違うことなども勉強になった。しかし「そよ風のおねえさん」「北風のおにいさん」とは何なんだろう。それだけが謎。恐らくこの作品における最大の謎。

あとは、とにかくもう、参加声優陣が物凄い。のちの有名人気声優だらけ。ルパン や 不二子 、目玉のおやじ、スネ夫 などが、それぞれその特徴的な声のまま全く異質な動物役をやっているという違和感というか妙な具合の悪さとくすぐったさ。一話や二話限定のゲストも凄いひとたちだし、後半の話数になると 野沢雅子 も準レギュラーになるし、わずかの端役に誰かと思ったら 神谷明、とか。話はいまいちだけど声優陣の力で惹きつけられる回が結構あった。ビリーおじさんのおかみさん と トム少年 という全く異なる二役を同一話数の中でこなす 友近恵子さん もおもしろいと思った。ピーターうさぎ(永井一郎)とカケスのサミー(八代駿)は毎回のように新しいキャラクターソングを歌わされていて収録は大変だったろうな、など気になったり。そういえばそいつらに限らずほぼ毎回誰か歌っていたっけ。

SHIROBAKO」でもってやっと思い出されるぐらいで、あまり名作との呼声も聞かない作品で、たしかに今新番組として始まったら3話で切ること確実なタイプだけど、古き良き時代の作品を知るためには観ておいて損はなかった、かな。

どうでもいいけど最終話のエンディング。ウィキペディアでも触れられていないし、ググっても情報を見つけられないんだけど、この最終最後のエンディングの歌だけ、恐らく録り直していると思う。バックトラックは同じなので誰もが気づきにくいのかな。この二ヶ月近く平日毎朝観て聴いていたのでわかった、微妙に歌い方が違う。だから何だってことでもないけど、今は当たり前にある特別 ED という演出が無かった時代でも、まったりなんでもなく終わった最終回でも、最後に何か特別なことをしようと思ったひとが居て、そういう人の思い入れを込めて一年間作り続けられた作品だったんだな、ということが感じられて、なんか良かった。