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魔女の旅々 4話狂ってる

majotabi.jp


若き魔女 イレイナ が旅をして毎回立ち寄った町や村でのエピソードが各話オムニバス的に語られる作品。

4話「民なき国の王女」は、イレイナが到着した時にはほぼ壊滅した廃墟同然の王都にて、その国の王女を名乗る記憶喪失の女性ミラロゼと出会い、夜な夜な王都を徘徊する怪獣に対処する。


まずこのいきなり立ち寄った町が滅んでいる、でいて大して驚きもせずそこで休息しよう、というのがだいぶ良い根性しとる。
いや、今回結末までも、途中のミラロゼと怪獣のバトル含めてなかなか凄まじい話と描写だったが、正直その顛末についてはべつに狂っちゃいない。こういう作品だ。魔女の存在自体が常軌を逸しているわけだし。


今回の本題は、まずパン。
この回、朝食のシーンに登場する、ミラロゼがその手で焼いて振る舞う、イレイナが食べるパンの作画が、とにかくおかしい。可笑しいと書いた方がいいのか。
キャプチャ画像を貼りたいくらいだが、丸いパンを両手で左右から引きちぎる、そのちぎれていく様が非常に細かく描き込まれている。時間にして2秒か3秒程度のカット、なんでそこまで描き込んだのかとツッコミたくなるほどで、大笑いした。
続けてその隣のベーコンエッグがアップで映るとこれもまた、目玉焼きの端の焦げ具合もさることながら、ベーコンの焼け方、油分のテカリの描き込みがやたらに細かくて笑う。止め絵かと思ったらさらに、それをフォークで突き刺し丁寧に巻いていくという動きもあり、もう可笑しすぎてこの間の会話が全く頭に入ってこなかった。話の理解のためにも二回見返した。
なんでたかだか朝食をここまで描く必要があるんだと笑っていたが、アニメに限らず多くの映像作品においてそうして一見不自然に思えるこだわりが見えるカットというのは、だいたい結末に理由が判明する。今回もこの朝食を作ったミラロゼの、ここに至るまでの経緯にその理由が含まれていた。
いや厳密には、理由が判明するとか含まれているとか、そう考えるのは視聴者側の解釈というかこじつけに近い。でもそう考えなければ、なんであんなカットにフルパワー注ぎ込んだ?という疑問は解消しえない。
今回ここでの解釈としては、要は、愛。ミラロゼの愛、このエピソードを熱く語りたかった制作陣の愛。愛は狂気。ということにした。



もう一点ある。
朝食のシーンよりも前、イレイナとミラロゼが出会ってお互いの素性を明かし、この王都が壊滅した原因が語られる謎の手紙を読むシーン。配信動画では8分~9分の辺り。
二人は窓辺に立ち、画はそこに並ぶ二人を外側から窓越しに正面で捉えており、この時画面に向かって左がミラロゼ、右がイレイナ。
しかし次にカットが横向きになると、画面左側が外、窓を挟んで右側にイレイナとミラロゼが前後に並んでおり、二人は左を向き窓の外を見つめている。前の正面カットからの繋がりで当然そうなるが、おかしなことに二人の立ち位置はイレイナが奥、ミラロゼが手前で、正面カットの時と左右が入れ替わった格好になっている。
続けて背面カットで、室内から窓の外を見る二人を後ろから捉えた画だが、これもミラロゼが左、イレイナが右で、横向きカット同様に正面カットから左右立ち位置が入れ替わっている。
そしてまたすぐ後、再び正面カットに戻ると立ち位置はミラロゼ左、イレイナ右に戻っている。気にせず見ていれば、ただ単にずっとミラロゼが画面左に、イレイナが右にいて会話しているだけのシーンとして流すこともできるが、常々「アニメで描かれる絵には不必要な描写はない」ということを念頭に置いて見ているので、こういうのは非常に気になる。

ただの作画ミスなのか。
個人制作とかサークル制作の同人アニメならこんなミスはあるあるかもしれない。でも多くのスタッフが関わり、作業工程ごとに担当者もその目も異なるメジャーの商業アニメでこんなミスが気づかず修正されないまま放送にまで乗ることがあるだろうか。
SHIROBAKO 知識程度だが、作画の前に絵コンテ、作画の打ち合わせ、作画後には作画監督のチェック、総監督のチェック、動画チェック、諸々工程挟み、動画になった後にもラッシュチェックがあり、ミスを出さないように白箱完パケまでに何重にもチェックが入ることは知っている。
ということは、今回の立ち位置の入れ替わりには意味があると考えるのが妥当。なはず。

どんな意味があるのか。
書き手不明の手紙、王女であり魔女のミラロゼの記憶喪失の原因と王都壊滅の理由が語られるこの時に、その手紙の内容を既知のミラロゼと、ここで初めて読むイレイナ。当初は二人対面、向かい合うかたちで、イレイナは一句ずつ意味を確認しながら読み上げるが、その度にミラロゼは何か含みのあるような顔をしながら次の一句を促していく。手紙の中で「窓の外を見ろ」と指示があり、ミラロゼも無言で窓の方へ手を向けイレイナが外を見るように促し、イレイナは窓辺に立ち外を見る。
流れとして動きはこれだけ。この直後、窓の外に怪獣ジャバリエが現れ、夜だけ現れるそれが王都を壊滅させたこと、今二人がいる王城だけは安全であること、ミラロゼは魔女でジャバリエを倒すよう手紙から指示されていることが語られる。

ここで二人の立ち位置が入れ替わることに何の意味がある?
全くわからない。
見当もつかん。

もう一度、アニメをじっくり見直した。

よく、しっかりと見なければいけない。
窓の外から窓辺に立つ二人を正面から捉えた、ここだけ背面や横向きと立ち位置が逆だと思えるカット。この二人の姿は、部屋の中から窓に映る二人を撮ったものだった。前提の「窓の外から」からして誤解であり、「部屋の中から」のカメラで、窓に映る、鏡面反射のカット。つまり左右反転された描写は全くもって正しく、立ち位置が逆と見ることの方が不自然だったのだ。
正面を捉えた二人の背後に部屋の内装が見えるが、ここにうっすら窓の外の景色もオーバーレイされている。いや、正しくは窓外の景色に室内とそこにいる二人の姿が窓(内面)に映りオーバーレイされているわけだ。窓外と映り込みのクロスフェード、双方のレイヤーの透明度の加減が、素人目には「窓越し」と誤解してしまうレベルなのかもしれない。
恐らくは室内の照明の加減と外の暗さに対して、窓に映るならこれくらいで外の景色にはこれくらい重なるのが自然、といった計算の上での描写だとは思う。しかし窓ガラスを嵌め込む格子状の木枠はあるが窓枠や窓全体が映るカットではないため、窓の外からのカットなのか中からのカットなのか、一見パッと見はとても分かりにくい。
だからこそ立ち位置の違いで判別できるように意図的に構図が考慮されているのだろうし、違和感が伴うように何度かカットも切り替え、窓に映っていると気づけるように編集されている。が、だからこそ、だからこその誤解、でもある。一旦「この見方が正しい、これはミスだ」と認識してしまうと、制作側の配慮など浅薄にさえ思えたりもする。

もしかしたら多くの視聴者は誤解も不自然さも覚えず正しく「窓に映る二人のカット」として認識できるのかもしれない。或いはそんな細かい一切を気にすることなく流すかもしれない。それならそれがいい。前述のパンの件も含めて、自分は今回の話の筋を一度の視聴ではじっくりと読み込むことができなかった。
つかなんで窓に映ってないといかんのよ。カメラワーク的にも窓越しの二人を撮る*1か、部屋の中で窓は別にした二人のカットと外の景色のカットを分けた方*2が話が早いだろうに。窓に映った二人を見せつつ窓の外の脅威も見せるというのは、何か技術的な難しいことをやってますアピールだろうか。*3

しかし面白いのは、正しい解釈である窓に映ったカットではなく、窓越しのカットだと解釈した場合の、イレイナが手にした手紙をミラロゼが引き取るところ。
横向きのカットで画面奥(左)にいるイレイナの手にある手紙を、手前にいるミラロゼが右から取ったかと思うとその瞬間カットが問題の正面窓に替わり、左に位置するミラロゼの手に手紙が入る。
手紙の移動としては、左から右に取られたかと思った瞬間左に戻っているという、ジャン=ピエール・ポルナレフばりに何を言っているか分からねえ状態。魔女の為せる業。


雑な作画ミスの指摘として終わらせてしまうところだった。
適当に見ていちゃいけない、という教訓にもなった。
でも適当にもなる。1クール20本視聴はきつい。
こっちこそ狂ってる。

*1:この窓の位置で外から撮るにはクレーンを用いる必要があるため制作費が嵩む可能性が高い。

*2:撮影時間、タレントさんの拘束時間、編集の手間でやはり制作費が嵩む可能性が高い。

*3:邪推。