BINTA

BOOTSFIGHT IN THE AIR

舌の根も乾かぬインサイド

もうやらないと書いたばかりのゲーム「INSIDE」の話。

こんなはなくそブログは日々誰も見ていないに等しいが、
以下にはゲーム内容のネタバレを大いに含んでいる
ことを前提として一応書いておく。攻略に触れてはいないが。


ふつうのゲーマーさんはどんな感じでやるものか気になったので適当なプレイ動画を探して観た。そしたらいきなり自力では絶対に見つけられなかったに違いない場所の実績*1をあっさりと発見しておられたりして、図らずも完全クリアの様子を観るはめになりそうになったので、一旦動画を止め、3周目をやった。
ヒントを得てしまった箇所を含め実績をすべて回収して2時間かからずクリアしたが、チャプターで該当部分だけやれば済むことを忘れていた間抜け。裏エンディングと呼ばれるものも観た。完全にカンニングで。


を経てのゲーム内容の個人的解釈。2016 年発売のものを、恐らく多くのプレイヤーによって散々語り尽くされたであろう話を、今更。
レビュー等を読むと、「文字情報が一切無いこのゲームの解釈はプレイしたひとそれぞれに異なり、十人十色のストーリーになるだろう」といったような意見をよく見かけた。そういうわけで以下に書くこともあくまで個人的解釈。一人の遅れてきたプレイヤーの妄想にすぎない。恐らくありふれたもの。他のひとの解釈は全く読んでいないので知らない。




このゲームの内容解釈を書くためには、まず結末を含むゲームの全体に触れざるを得ない。
何かからの逃走を経て主人公少年(以下単に「少年」)は、謎の施設の内部に入り込み地下へと降りて行く過程で水中でも窒息しない体に変えられ、その後さらに施設内で研究されていたと思しき多数の人体を溶かして丸めたような巨大な肉塊*2の中に取り込まれ、その肉塊を自身として動き回り暴れた末に施設の外へ抜けるが、転がり落ちた水辺の草の上、穏やかな光の下で動けなくなり打ち捨てられたような状態になって、静寂のままにゲームは幕を閉じる。


少年は何か。
特殊な生命体かもしれない。動物を寄せ付け、多少の落下には耐える、肺活量や跳躍力は人間並だが体力持久力は超人的。裏エンドではその体すらも道中に見かけた外部コントロール可能な体(以下便宜上「人造体」*3)と同じモノのようにも捉えられる表現がなされ、それが答えかもしれないが、だとすると何のために走り、何から逃げていたのか。後述。


施設は何なのか。
恐らく人造体の生産管理工場。序盤で工場方面に入って行こうと並んでいる行列のモノたちは欠陥品として返品されてきた人造体たち。
一定間隔で跳んだりまわれ右するポイントは検品所。正しく動かないものは廃棄に回される。廃棄人間は研究材料や実験体に使われたり、地下炭鉱などでの単純労働に用いられたり、その用途にも足らないモノは肉塊にされたりゴミになったり。
途中、檻に入れられフォークリフトで運ばれるモノたちは出荷品。ただし新品なのか修理済みの中古品なのかはわからない。
最初に林の中でトラックに積み込みしているのは欠陥品回収車。各地を回って回収している。或いは原材料となる人間を摘み取っているのかも。つまりスタート地点は人造体の原産地。

世界はそれなりに崩壊しているわけだ。終末世界。部分的にかもしれない。何らかの原因によって人間の多くはまともな人体を失った。原産地のひとたちはまともな体だったがいずれも自力活動が不能になった。
原因のひとつとしては、前作「LIMBO」にも登場し今作で豚に取り付いているのが見える大きめの白いヒルのようなやつ。それに寄生されると精神を奪われ、取り除いても多くの場合は自我が戻らず植物状態同様になる。

ヒルはなぜ他の生物に取り付くのか。そういう生き物だから。他の生き物の自我を担う部分の脳組織を主食とする。このヒルの性質を研究した成果として、電気的機械的にその機能を再現し、人造体を外部コントロール可能な電磁波か脳波か何かを送信できる頭部接続機が開発された。
またヒルそのものを改良(遺伝子を云々)した上でマイクロマシンだかナノマシンみたいな機械を埋め込むことで、人造体のパーツになる人工ヒルを作り出すことも可能になった。ただしヒル自体の細胞は人間の脳組織になり得ないため(元のヒルが餌として生物の脳組織を求めるのはこれが理由とされる[※要出典])、頭部は人間素材の人造体のものにする必要がある。


ゲーム中、人造体以外にまともな体のまともな人間は恐らく一人も出てこない。もしも居たとすれば巨大肉塊の水槽の前から一人だけ逃げないメガネをかけた肉塊研究者っぽいやつと、重役室っぽい部屋から押し出され落下後肉塊に潰されて赤黒いシミになる通称社長ぐらい。でもそのひとらも人造体であったとしても話に大差はない。人造体だからこそ逃げなかった、捨ててもいい体だったとも言える。
他のまともそうに見える社員っぽいやつらも全部人造体。或いはもしかしたらその人造体を遠隔で操る、意識と思考部分を担う人間(またはその脳みそだけ)がこの工場以外の世界中にいるのかも。いつもながらの粗末な例えだが映画「マトリックス」の人間世界のような。

清掃員やフォーク運転者の人造体が居るように、世間的に人造体は自分の意思を伝達して遠隔操作で使うモノ*4で日常生活にも利用されているのだろう。自宅に居ながらにして昼間は人造体を操作して労働をこなして賃金を得て、労働時間が終われば接続を変更してネットなり何なり、通勤などなく生活において体をほとんど動かすことなく、というか体を持たずしてバーチャルで動いて生きていくことができる。


少年も人造体、であるならなぜ見つかると追われ、殺されるのか。
追手の犬が反応するのは人造体メーカー組織を敵視する、または世界の秩序を乱す、所謂レジスタンスとかアノマリー的存在。もしくはそういう何か(パワーかフォースか異能力か、そういった類)を宿した者。自我を持ち、組織のコントロールが効かず、拘束をはねのける力を持つ者。
そういう者をいつしか誰かが「INSIDE」(内部にソレを宿したモノ*5)と呼んだ。犬が反応するのも INSIDE の人造体ではなくその内部のソレであり、その他の動物が INSIDE 少年の周りに集まって付きまとうのも同じ理屈。
組織の者、追手は「INSIDE は排除すべし」と命令されている。追手ももちろん人造体であり、それを操作する者たちはゲーム感覚で追う。なんなら敢えて犬の人造体を選択して追跡スキルだけを磨いたやつもいる、とか。


人造体の主な欠点は光による明暗の認識が甘いこと。影や暗部で動くものを視認しづらい。真正面から強い光を当てられると視覚的情報の取得量が落ち予測行動や反応が取りづらくなる。人造体に組み込まれた視覚的センサーの品質のせいか、それとも世界の汚染した空気のせいか、または INSIDE の放出する特殊な電磁波的な波動の影響か。ミノフスキー粒子のせいか。
逆に INSIDE であれば光の視認性に難はない。ただし色や遠近感の認識に劣り、目立つ色の物には反応して触れてしまう習性があり、近くの通路を見落としたりそれがどこまで繋がっているかも見通しづらく、得てして一定方向に向かいがち。


水中に現れる乱れ髪の子はなんなのか。
当然人造体である。恐らくは人工的に INSIDE の人造体を作り出そうとして実験に使われ、成功を見ずに放置された失敗作(よくあるパターン)。
人造体は、原産地から入荷した欠陥人間を一旦液状に分解し不純物を取り除いたのちヒト型の肉人形として固めたりする工程を経て培養~再生産されるモノであるが、INSIDE はこの培養過程で元の人間誰か一人の成分の割合が一定値以上含まれると発生しやすい。または特定の血縁の成分が数%を超える場合だとか、放射線の影響だとか病原菌が混入した影響だとか、実はまだ研究途上で諸説ある。一部には研究所内にソレを発生させることができる人間が暗躍しているという噂も囁かれている。過去ほとんどの事例において検品工程では判別できず、出荷後にユーザーに利用される中で自我に目覚め逃亡を図ったり事件を起こして、エラー(欠陥品)報告として存在が発覚するという。
偶発的にしか発生しないというそんな INSIDE を、人工的に意図的に生み出そうとしていたのが地下の水中施設。実験体は INSIDE 並みの体力、活動力を得たものの、その特殊な力はその他一般の人造体や施設では管理しきれず、暴走による計画の破綻などあり、やがて実験プラントごと破棄、放置された(よくあるパターン)。

そんな人造体や生産施設を運営する組織を敵視する INSIDE および周辺活動家たちは、何らかの工作を企て度々この廃墟施設付近から忍び込むことがあった。ならばと組織側は失敗実験体たちを番犬として配置し、不法侵入者を葬ってきた。
その番犬の一種が水中のあの子(以下便宜上「水の子」)である。


水の子が少年を水中活動可能な体に変えるのはどういうことなのか。
水の子は一人ではない。出くわす場所によって個体が異なる。番犬の子は少年を殺しにかかるが、水中に引き込んで蘇生装置を取り付ける子は、実験失敗作のひとつではあったものの INSIDE に限りなく近づいた実験体で自我を持ち得た。しかし失敗作と見なされたがために陸での活動機能を与えられず、永遠に水中に漂うしかなく、いつかそんな現状を変えてくれる誰かが現れることを待っていた(よくあるパターン)。
たぶん少年を捕まえ、水中に引き込む直前までは少年が水中で活動できないことを知らなかった。引き込んで苦しみもがいたのち息絶えたのを察知して大慌てで手近な機械を当てた。もしくは少年がそこに来る初めての侵入者ではなく、そのまま死んでしまったり機械の施術で復活した前例があったのかもしれない。だから手際よく蘇生させることができた。
蘇生? 電気ショックとか電子操作みたいなことで呼吸器系の仕組みを細胞から変えて、無酸素で生きられるように or 肺を水で満たして直接酸素を吸収できるように or そういった機能を元来備える INSIDE の能力を解放した。とか。

それはいいとして、なんでその助けたあと姿を消すのよ。
今回の少年以外に復活した前例があったとして、その後も水の子は念願叶わず未だに水中をさまよっていたわけだから、今回助けた少年もまた何も変えることができないまま組織に握り潰される可能性がある。つまり、次の機会、次に来てくれる侵入者へ望みを繋ぐことも考える必要がある。
助けた者が INSIDE の能力者であるかどうかを問わず、侵入者を助けるような失敗作が存在するとなれば組織は何がしか対処し、最悪この子は完全に廃棄されることも考えうる。中にはそうなることを望んで消された失敗作もいただろうが、この子はそうではなく、生きたい。だから逃げた。
或いは、INSIDE 同士の電磁波通話みたいなもので少年と意思疎通ができて、実は少年が目覚めるまで近くに居たけども、諸々の事情を瞬時に察した少年が「逃げろ」とか「番犬のフリを続けろ」などと言ったとか。


少年は逃げていたのか。それともそこを目指していたのか。
ゲームのプレイ感覚としては逃げて、追われて、不可抗力的になし崩し的に地下へ地下へと向かってしまったように感じる。または数々の仕掛けの配置のしかたが意図的なものだとすると*6、INSIDE 能力者の性質を逆手に取って施設に向かうように仕組まれていたとも考えられる。
ホームフィールドである施設内で INSIDE 少年をどうにか捕らえて、研究開発中の人造体集合生物を起動させて抹殺を計ろうとしたものの、その研究水槽を破壊しようと潜り込んだ少年を集合体が本能的に捕食、INSIDE の意思と能力を持つ肉塊生物になった。もはや後戻りできない状況になった元少年こと肉塊はやけくそに暴れる。
しかし組織の方が上手だった。実績ポイントのどこかに同じような肉塊の写真があったように、この INSIDE 肉塊騒ぎは初めての事ではなかった。前例があり、再発の際に取るべき対策は既に検討され、講じられていた。特定の色に反応し仕掛けものを解こうとする INSIDE の知能と習性を利用し、施設外部に繋がる導線に肉塊でも突破できる仕掛けを配置。反抗と復讐の成功に気を良くして肉塊は転がり続けるだろう。職員に味方を装わせて逃走の手助けまでさせ、その果てに辿り着くのは廃棄物の外部排出口、ゴミ捨て場。
すべてが計画通りだったのか、それとも偶然か、脱出の過程で肉塊は INSIDE の能力を失う。動物は寄り付かずに逃げるようになり、打ち捨てられると救いを求める手段も失った。肉塊は水の子以上に光に弱く、光に晒されると細胞が収縮し活動力も著しく低下する。そして外気は肉塊の延命には不向きで、施設外に放り出されたあとはもう長くはない。

裏エンドの意味と合わせると、そうなった肉塊も少年も、結局のところ誰かが操作する人造体のひとつでしかなかったということなので、まああとはなんとでも。エンディング以後の話でも、世界がこのようになるに至った前段の話でも、以上のように適当につくろうと思えばいくらでもできるはず。


簡潔にまとめると、人造人間の中に生まれた異端児による管理社会への反逆そして失敗の話、ということか。そう書くとフィクションとしては珍しいものではないけど、失敗、ゴミ落ちというのが後味悪くて、良い。
自分の解釈が良いんじゃなくて、そういう見せ方をしている全体の演出が、よかった。




なぜ書いた。半日無駄にした。

*1:Steam では『実績』として1コ1コにタイトルも付いているらしいが、Epic 版は単に「1/14(14分の1)」などと分数が赤字で示されるだけだったので実績だとは知らなかった。

*2:ロマンシングサガ2の七英雄が集合した最後の姿を彷彿させる。

*3:Oxygen Not Included の複製人間の自我無い版、またはエヴァンゲリオン的な人造人間、魂の入れ物、義体

*4:そういえば楳図かずお著「14歳」に出てくる複製人間は『モノ』と呼ばれ人間以下の存在と蔑視されていた。余談。

*5:ジョジョの「スタンド」が『そばに現れ“立つ”』を語源としているような感じ。

*6:例えば照明を向けて侵入者を探知&排除するマシンが多い割に、必ず死角となる影が用意されているのが極めて不自然に感じる。ゲームとしては死角の無い完璧な砦では詰むのだが。これはたまたま死角の多い施設を巡った話だったからたまたまゲームにまでなったのだ。