BINTA

BOOTSFIGHT IN THE AIR

無能なナナ

全 13 話。
この世界には不老不死、治癒、発火、氷結、時間遡行、念写、死体操作、等々、それぞれに様々な特殊能力を持つ「能力者」である子供たちがいる。なぜか揃って高校生の彼らは、いつか襲い来る「人類の敵」と呼ばれる謎の存在に対抗し力を合わせて戦うために、どことも知れぬ無人島の学校に集められて暮らしていた。

以下ネタバレ注意。
ある日転校してきた読心術の能力者少女ナナは、実は何の能力も持たない「無能力者」の機関からこの学校に送り込まれた暗殺者だった。読心術使いというのも嘘で、ひとの細かい所作や身につけた小物、ちょっとした何かの痕跡等からの推察、洞察力、判断力に長けているというものだった。そして、無能力者にとっては能力者たちこそが「人類の敵」なのだった。
表面上は可愛い転校生、優等生キャラを演じるナナだが、隙あらば同級生能力者を一人ずつおびき出し秘密裏に殺害していく。が、同じくらい洞察力に優れた少年キョウヤはナナの不審な点に気づき・・・、といった話。


能力者モノだけども、能力を行使してのバトルがメインではない。以上のような全体のあらすじも2話以降で初めてわかるもの。ということでネタバレ注意の書式にした。
1話では無能と馬鹿にされ自分でも「たいした能力ではない」などと言う卑屈な少年「ナナオ」が最終的に強力な能力を発揮し、主人公らしい振る舞いを見せる。無能と言われるこの少年が主人公『無能なナナ』なんだなー、と思ったらその初回最後、本性を見せた少女ナナに崖から突き落とされる。
2話、3話と、突き落とされた主人公がどうなったか全然様子が描かれないなーと思っていたが、5話になっても過去のひと扱いになって戻ってくることはなく、そのへんになってようやく気づいた、タイトルの意味を履き違えていたことに。暗殺者のナナの方こそがタイトル通りの主人公だったと。

無能扱いされるナナオと無能力者のナナが、能力者集団の中で最高実力者的な存在になって、皆を率いて来たるべき「人類の敵」と戦う。なんかそんな話だと思っていた。よくありますやん。よくあるものだと切り捨てようと思っていた。切り捨てたかった。絵柄とかナナの性悪な人格が好きじゃなかったので。
しかし切り捨てさせなかった。何がだろう。無能力者機関の目的とか、「人類の敵」の真相とか、得意満面なナナの顔がいつか歪むことへの期待とか、そんなとこだろうか。切り捨てたかったと言いつつ、今期選別した 20 作品の視聴を欠かさず続けてみたいと思ったこともなかったとは言えない。

スリード
主人公すり替えの1話をはじめ、この作品を毎回視聴するたび気になり、気づき、理解の上で重要だと感じたポイント。要するに、視聴者(または原作読者)の予想を裏切り、斬新な展開を見せ、刺激を与えて楽しませる技だろう。しかしこの作品はミスリードせんがために、伏線が用意周到だったりそうでもなかったり、都合のいい伏線にしていたり、毎回観終わって気づいた時に、なんかイラッとした。上手いこと考えるもんだとも思うものの、その上手さが鼻につく。なんでかしらん。

暗殺者なり殺人鬼なりが多数のターゲットを一人一人計画的に殺していく作品というのは、世の中にいくらでもあるんだろうが自分にとっては珍しい。この作品に感触の似た視聴経験のある作品と言えば、「バトル・ロワイアル」あたりか。岡本喜八の「殺人狂時代」も同類なのかもしれないが、あれはコメディ感が強くてサスペンス風味が希薄。チャップリンの「殺人狂時代」は殺人犯のみを描いているのでだいぶ違ってくるかな。
いずれの作品においても盛り上げに重要なのは、対決や殺人そのものではなく、犯人の思考、計画の巧妙さと、それを語る語り口、殺人犯と被害者の会話だったと思う。この作品もたぶんそこのところがおもしろく、切らずに観続けていられた要因のひとつだった。でも鼻についた。なんでかはしらん。悪くないけど。

で、そういった暗殺サスペンスを続けておきながら最後、ケツの二話は、なにがしたかったんだろう。なんであんなところで終わったんだろう。
治癒能力の少女ミチルの優しさに絆されたのか、「人類の敵」= 能力者 = 同級生への殺意を乱されて逆に殺されかけて、しかしミチルのディーパスオーバードライブ的な全力回復能力で助かってミチルちゃーん、で終わり。いやいや待て待てなんでよ。最後ゲストの藤原啓治氏も墓場で頭抱えるよ。
要はまだまだ話が続くってことで、1クール分のアニメでは途中までしかできなかった「星合の空」パターンってことか。なら言えよ、言わせろよ、いまわの際に
「ナナしゃん・・・原作コミックス、買って・・・ね(ガクッ)」と。

以上のようなことで、最終的にはそこそこ楽しめてしまった。
主役の大久保瑠美の裏表違いの激しい演技も、ウェブ動画のミニコーナー「ナナチャレンジ」での七変化みたいなやつもおもしろかった。
続編、期待、でもないが、またミスリードでイラッとしたいとは思う。