BINTA

BOOTSFIGHT IN THE AIR

スーパーカブ

全 12 話。
山梨の公団住宅風古マンションにて家族や友人等の身内もなく一人暮らしの女子高生が、ある時原付バイクが欲しくなりバイク屋に安価なものを求めて行ったところ、店の老爺からスーパーカブを薦められ、購入。それをきっかけに、バイクに乗る楽しさやカブの可能性を知り、その魅力に取りつかれ、やがてカブのグレードアップやドライバー技能の向上に伴って行動範囲が広がったり、他人との交流が増えたり、人間的に少しだけ成長していく、といった話。

とてもよかった。
どこから切り出したものかどう書くべきか難しい。
例えばタイトル「スーパーカブ」。「スーパーカブにのって」とかじゃなくて単車の名称のみってのが、考えてみるとなかなかすごい。

スーパーカブ。既知の通りのご年配ご用達の原動機付自転車くらいの印象だったが、アニメとしてイラスト的に CG を交えてきれいに描かれると結構アリかも、と思えた。そう言っているてめえももう年配の方なので、そういうふうに感覚が老いただけか。

主人公、小熊という女の子。かわいい。
実際居たら、実写にするなら美少女とは言い難い子なんだろうけど、カブにまつわる様々な喜びの場面でやや気持ち悪げに幸せそうに笑む顔がとても良く、こちらもそのたびに貰いニヤした。その笑顔の時こそがこの作品の最大の見所、一番魅力が輝いたところだったと思う。

でその、小熊ってなんなんだろう、と度々考えた。
浮世離れした生活を送る謎多き女子高生。なにがどうしてこんなキャラになったのか。詳細は語られることなく終わってしまい一切わからずじまい。
むしろそこは望んだところでもあった。単車スーパーカブを題材にした「スーパーカブ」というタイトルの作品で、乗り手の少女の湿っぽい話をされるのは違う。そんなよくある話でがっかりさせられるくらいなら最後まで何も触れなくていい、バッサリ捨てておけ、アニメオリジナルで掘り下げなんて以ての外だ、と。
その点でこの制作陣はよくわかっていると感心した。とはいえ知りたいっちゃ知りたいんだけど。でもこの作品ではほしくない。公式サイトで解説とかスピンオフでエピソードゼロとかそういうのもいらない。これはこれ、「スーパーカブとそれに乗る女の子」という部分だけを語り続けてくれればいい。知りたいっちゃ知りたいんだけども。ジレンマ。

過去とか血縁者がどうとかそういうのも気になりはするが、話数を重ねると、そんなことよりも口調とか所作とか行動における不自然さに引き付けられた。『惹かれて惚れた』のではなく、奇妙であるがゆえに目が離せないような感覚。
「普通」からは遠いような、「どこにでもいる女の子」では決してない不可思議な存在感。宇宙人なんじゃねえかくらいの。もしかしたらそうなのかも。まともな女子高生らしさを感じさせない尖った言葉遣いや、まともとは言えそうにない日常的食生活も、宇宙人だと考えればそうなるのもわりと納得。冷めた白飯のみの弁当にレトルト食品を温めずにかけるというのも宇宙食っぽい。

カブを得ての小熊の成長を描くためか、或いは人間キャラクターが一人では話に幅が出ないからか、途中からレギュラー友人キャラが一人二人加わる。その子らがフィーチャーされる回もあったり、小熊の根の人間性が垣間見られるようなやりとりもあったり、それはそれでおもしろかったが、個人的には一人での原付冒険記だけでワンクール通してくれても全然よかった。
宇宙人のような異端児による常識知らずな、しかしわりと器用なところもある行動を観察するのが楽しい、のかもしれない。ゆるキャン△のしまりんソロキャンがそれだけで一話いけるのと同じ感じ。

といったことから考えるに、1話がピークだったというタイプの作品だったが、のちの話数も1話での感激を台無しにするようなところはなかった。
最後の終わり方も十分なものではあった。けども、1話以上に物凄く見入るようなことはなかった。話も演出もそんな高め方をしていなかったから。というのもあるけど、終盤は「スーパーカブで日々をどうこうする」ということよりも「仲良くなった三人のそばにいつもスーパーカブ」みたいな方向にテーマが少し変わってしまったのが原因かな。
つまりアニメとしてはわりとありきたりな女の子たちの日常モノに寄ってしまった感じがして、それは特に求めていないものだったので無意識下でなんとなく冷めてしまったというか、そんな感覚。有りは有り。なしではないけど、んー、最後にそれで終わるかー、と。他にテレビアニメシリーズの最終回にふさわしく盛り上げられるエピソードがなかったんだろう。

言ってもスーパーカブだぞ。元より感動とは縁遠いバイクなんじゃあねえか。大きなのっぽの古時計的な曰くでも付いてなけりゃ泣かせられる代物じゃあなかろう。それで言えばもう一回バイク屋の爺さんに登場してほしかったな。話数重ねて月日が経って、今はもう動かなくなっちゃったのかな。

さてこれ、続編は有り得るのか。
あれば観るけどなくてもかまわない。これで十分完成度高い。特に1話。というか1話だけでかなり得点力高い。ほぼ初回コールド勝ちみたいなとこあった。
途中交通法規の面で味噌が付いたりして一般評価は多少下がってしまったみたいなので、もう無くていいんじゃね。何と言ってもスーパーカブだし。そんなに持ち上げるもんじゃない。私は好んだ、皆はそうでもなかった。それくらいがこのタイトルに相応しい。