桜花舞上三夫(さくらのはなまいあがる・みつお)
謎の無人島からの五人目、六人目の死者として報道され世間を騒がせた角倉志兄弟、その二人の弟である三男。三十代、企業取締役。
大学を出て象県鹿島市の某一流企業に運良く就職。数年後、会社の経営陣である一家・桜花舞上家の娘に見初められ婿養子に入り改姓。妻の力で出世コース、役員の座を得たが自身に大した手腕はなく、その座に甘えて職権乱用。会社の金を適当に使い込み、妻を呆れさせ、社長である義父にはすべての権限と地位を剥奪され、遠方に左遷される。
「警察沙汰にしなかっただけでも有り難く思え」という義父の言葉を右から左へ聞き流し、その時社長室に流れた無人島調査の報道に兄弟の名を見つけるや、「あ、これチャンスじゃね?」と直感し、足早に左遷先に旅立つフリをして兄弟が消えた無人島へと向かったのだった。
兄・二夫(ジョー/出生名:ふたお)の死から一年後のことだった。
1日目~7日目。
省略。
二夫の遺品として受け取った無人島生活の日記に書き残されたノウハウに素直に従い、特記すべき出来事もなくそれなりに暮らした。
8日目~14日目。
葉っぱは放置しておくと強風に吹き飛ぶ&乾燥して枯れ葉になると使い道が限られてしまう。といった注意書きに習って、周辺探索で見つけたヤシの葉は極力住処に持ち帰り、枯れる前に編み込んで織物にした。
そうすると必然的に必要な材料が貯まっていたので葉の小屋を難なく作ることができた。
20日目。
食糧と水は常に危なげながらも必死にやりくりする間に二十日が過ぎた。
あと長い棒がなかなか見つからず、クラフトのために数を揃えようと思うといちいち木を切らねばならず、やたらと体力と手間がかかってしまい困っている。
30日目。
何度かウミヘビに噛まれて毒に悩まされつつ、ひと月生き延びた。
ソリや火打石の斧など、それなりに便利なものも作れている。
35日目。
ヤギを狩った。
兄ジョーは将来的な家畜化を見据えて殺さず逃がしていたそうだが、明日すら不安なこの世界で将来を見据えるなど馬鹿げている。首が飛ぶっつうのに髭の心配をするのかってやつだ。いや、ちがう。
とにかく背に腹は代えられん。
なんでもいいから一旦狩っておこうと思った。
葉や枝や棒を集めに出てきたが、ヤギの亡骸は一体ソリに乗せたら他はろくに乗せられないほど重くて、持ち帰るにも一苦労。
37日目。
持ち帰って一旦放置していたヤギを捌いた。
ヤギ肉すごい、量がすごい。これまでの鳥や猿の三倍が取れる。脂肪も取れる。ジョーが入手できず困っていたという脂肪が、今この手に。兄を確かに超えた瞬間。
そして脂肪を使って水筒ができた。
41日目。
40日経過。
この一週間ほど前から嵐が頻繁に到来するようになった。
これが記録にあった風水害の季節か。
44日目。
雨降り止まず、嵐もまだ来る。
凍えて寝付けなくなるのを防ぐために小屋の中にもキャンプファイヤーを置いた。さらに、荒天しのぎの室内作業のために、脂肪からろうそくを作った。が、数は無いのでもったいなくて使えない。洞窟探索の時のために取っておきたい。
46日目。
窯ができた。
兄はそこ止まりだったようだが、俺は違う。
48日目。
続けざま土器をこねて、火力上げのふいごも作れたので、窯を稼働させた。
三つともちゃんと焼けて、取り出す時に火傷などすることもなく、ちゃんと使えるものになった。これで水の保存に少しだけ余裕ができるかも。
窯はしかしキャンプファイヤーと違って、炊いた火を一旦消すってことができず、燃料が尽きるまで放置するしかないようだ。焼き上がり時間を逆算して燃料を入れるべきなのか。そんな高度なことができるわけ。
50日目。
粘土器が作れたことで貯水槽も作れそうな気がしてきた(研究)。
これは兄の記録には無かった新たな展開だ。
50日。
少しずつ兄の経験を超えた未知の領域に進めそうな気がしてきた。
つづく。