BINTA

BOOTSFIGHT IN THE AIR

ドリフトデイズ 1

ある日、仕事中、突然、頭の中に『ドリフ大爆笑』のエンディング映像が流れた。あのうた、良いな、と思った。同時に、なぜかすごく物悲しい感覚もあった。帰ったらユーチューブで探して観てみようと思った。
帰ってユーチューブで探してそれらしい映像を観た。ああ、良いな、と思った。同時にやっぱりなぜか、すごく物悲しい。この感覚は、小学生の頃か中学生の頃か、夜、『ドリフ大爆笑』を観て、笑って、終わっていく時の、ああおもしろかった・・けど明日またいやだな・・、の感覚だ。風呂入らなきゃという感覚もある。
自分という子はそういえば、中学生に上がってしばらくまでずっと、夜中日付が変わるまで起きているなんてことは稀だった。二十一時をまわるともう寝る時間というのが当たり前で、二十三時までも起きていられない、夜が怖くて・・という子だった気がする。加えて色んなことが嫌だった気がする。
そんなことなどを思い出した。


さよならするのはつらいけど。
良いなあ。良い歌だなあ。
良い気分になって関連映像もいくつか観た。へえードリフってこんな歌も歌っていたのか。「ミヨちゃん」、「ズンドコ節」は聴いたことがあったけど歌唱映像を観るのは初めてで、新鮮な刺激。「ツーレロ節」もあったのか。アレンジがかっこいい。軽く衝撃的。
といった流れを経て辿り着いた、極めつけ。

こちらの映像。


ビバ・ノンノン (高砂屋ロック)


「ビバ・ノンノン」とあるので、てっきり「いい湯だな」のやつのアレンジ版のひとつかと思ったら、聴いたことあるような初めて聴くような、痛快でいて不思議な歌。「♪いい湯だな~」のフレーズは全く出てこない。
詳しく調べてみたところ、「ビバ・ノンノン」というこの曲と、有名な「いい湯だな(ビバノン・ロック)」とは全くの別曲であるらしい。「いい湯だな」がカバー曲であるのに対して、「ビバ・ノンノン」はドリフターズの映画主題歌として作られたオリジナル楽曲。レコードデビュー前の楽曲であり、どうやら正式レコーディング~音源発売には至っていない、謂わば幻の曲。
なぜこれが商品化に至らなかったのか、疑問符をいくつ浮かべても足りないほどすごくかっこいい。この映像を知ってから数日、頭からこの曲が片時も離れなかった。朝起きてから夜中床に就くまでずっと、知らず知らず口ずさんだり、止まらない。この曲をちゃんと聴きたい、もうこの曲が欲しくて欲しくてしょうがない、という状態になるのもすぐだった。

アマゾンでドリフターズの CD を調べてみると、「ビバノン・ロック」=「いい湯だな」はどのベスト盤にも必ず収録されている。当然だ。ドリフターズの代名詞的楽曲とも言っていいやつだし。
一方、曲名似て非なる「ビバ・ノンノン」は真逆で、決まって収録されていない。考えてみればそれも当然。デビュー前の、音源化していない、デビュー当時の映画で歌っただけの曲。その後恐らくほぼ全く公に触れられる機会もなかっただろう曲。一部コアなファンしか知り得てこなかったであろう曲。今ユーチューブにあったからこそまぐれで知れたようなまさに幻の曲。
聴くひとが聴けば良いとも思うだろうけど、後々シングル発売された他の楽曲と違って知名度皆無のそんな曲を、仮にもベスト盤と銘打った商品に誰が収録するものか。ドリフのベスト盤が企画される度、何度企画されても、そんな風に選曲対象にも入ってこなかった曲なんだろう。でも、それでも、欲しくてしょうがない。

アマゾンで一枚一枚商品内容を確認していくと、2005 年発売の『ドリフ映画だヨ! 全員集合』という CD の中に、あった。例の動画のタイトルと同じ、「ビバ・ノンノン(高砂屋ロック)」という表記まである。これは確実だろう。間違いあるまい。どうやら今現在、唯一この CD だけに収録されているらしい。
他にもドリフターズの歌唱曲として有名な楽曲のタイトルが並んでいる。それらも全部聴きたくなったところ、どの CD から買うべきか迷ってもいたので、この通称:映画ベスト盤をまず買った。

ドリフ映画だョ!全員集合

買った。のだが、収録曲リストを確認した時点で気づくべきだった。2枚組のそれぞれ、1枚に三十数曲が収録されている。それぞれ 10 曲程度+各曲バージョン違いがいくつか、という構成。で「映画ベスト」と。要するに、今でいうところのサウンドトラック CD なのだった。いや、よく言えばサウンドトラックと言える、くらいの内容。

ドリフターズが自身主演映画を制作していたのは、1960 年代末~数年。当時から映像と音声、音楽は別々に収録していたはずなので、文字通りサウンドトラックがあったんだろうけど、このドリフ映画ベストの CD で聴けるのは、現代における所謂サントラ盤音楽 CD として制作されたようなものではなく、ただ単に映画の音声トラックを切り出したもの。
一部ちゃんとサントラが残っていたものもあるらしく、それらはちゃんとサントラ音源らしい音質で聴けるけれども、特にドリフターズ他が歌う歌入り楽曲については、大半が映画劇中の台詞入り、劇中歌唱シーンの音声を抜き出したもので、主題歌集のような音楽 CD として成立しているとは言えない。
たぶんちゃんとした映画らしい映画作品ならともかく、コメディアンの企画モノ映画の音楽を、映画とは別に一作品として売り出すなんて考え方、そんなやつの主題歌集なんていう概念も、当時はなかったんだろうな。というのがあった上での、半世紀近くを経ての 2005 年初音源化、となったんだろうな。EMI さんも努力はしたんだろう。これが精一杯なんだろう。

そんなわけで、大変聴きたかった「ビバ・ノンノン」、ドリフ映画ベストのこの CD で聴けるのは、なんとまさかの例のユーチューブで聴けたやつとほぼ全く同じ音声だった。
かまわん。全然かまわん。無闇に最新の機材で今風の音質にマスタリングされて、聴きたかったやつのイメージがぶち壊されるよりは全然まし。映画冒頭や劇中で歌われたらしき、歌詞違いの別バージョンも入っていて、まあ正直大して変わり映えしないバージョンだけど、それもまたよし。ビーバノンノンーだ。


しかししかし、やっぱりかなしいかな、「ビバ・ノンノン」みたいな曲は他に無いのだった。ドリフターズのこの路線の歌がもっと聴きたい。なのに、当時のドリフに求められたもの、提供された楽曲は、そんなんじゃあなかったらしい。半世紀後にこんな時代錯誤のマニアックなファンが求めるものではなかった、だからこその大成功があったんだろうな。
「ビバ・ノンノン」的なやつを求めるならば、同時代に存在した他のグループサウンズ系のバンドを調べるべきなのかも。それは面倒臭い。

そういった音楽とは別に、今回初めて知ったドリフの映画、観たい。全部観たい。VHS しか無いとか、しかも廃盤とか、なんでなんだろう。つまり需要が無いのか。志村が居なかった時代だし。いやもったいない。



など。
ドリフターズの歌、初期ドリフを調べ漁る一方で、往年の傑作コントの映像もいっぱい観て、DVD も欲しくなったり。


つづく