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アクダマドライブ

全 12 話。
ネオンが夜を賑わす猥雑な都会。和字英字入り混じり電子公告やホログラム的映像に彩られるサイバーパンクな世界の日本らしき国、その中の「カンサイ」。大昔、「カントウ」との戦争に敗れたこの地方は壊滅状態に陥ったものの、カントウの支配によって復興し、現代ではカントウは市民の崇拝の対象となっていた。
主人公女子はそんなカンサイに暮らす一般人。野良猫を放っておけないような性格の彼女は、ある日たこ焼き屋で先客の落とした五百円玉を拾い、その先客=懲役 745 年のアクダマである運び屋の男を追いかけたことから、謎の黒猫とその他6人のおたずね者のアクダマたちと出会い、警察「処刑課」から命を狙われる逃走の旅に付き合うことになる。といった話。

カンサイ=関西、大阪を主要舞台としていながら、登場人物の誰一人としてその地方らしい方言も訛りも全く出さない。1話冒頭多くの視聴者が引っかかりそうな点だが、それにはちゃんと理由があり辻褄説明も抜かりはなかった。

サイバーパンク、派手でいてスタイリッシュな CG 多めの画、尖った登場人物のキャラクターデザイン、容赦ない殺傷描写、そしてクールな空気感。一見してわりと苦手な部類。嫌いではないはずだけど、大概こういった要素を兼ね備える作品はあまり好きになれないことが多い印象。何って具体例は出てこないけど。
苦手な点の主因は殺傷描写。所謂サイコパス的というか、殺傷殺害を描くのが楽しいとかそれを描きたくて作っている感じに見える作品は好きになれない。この作品はその点では、3話辺りまで観た時点で「ダンガンロンパ」に似たその手の悪趣味さが感じられた。調べたら原案の人が同じひとだそうで、なるほどと思うと同時に自分の適当な感覚も馬鹿にしたもんじゃないと思った。

感触は「ダンガンロンパ」風だけども、サイコな方面には寄っていない。話としては七人のアクダマと物語のキーである不老不死の少年とその妹の逃走劇が主。戦闘やら殺害やらはその道程において必要だから行われる。
テレビ放送向けに謎の光や黒いボヤがいっぱい差し込まれて、恐らくその向こうには部位損壊が惜しげもなく描かれてはいるのだろうけども、それは主人公たちが「アクダマ」と呼ばれ、いずれも懲役数百年とかの凶悪犯だからこそ*1。その凶悪ぶりを示すための表現、演出として必要な描写で意味があるから、その他の悪行の数々も含めて大丈夫だった。楽しんで観ていられた。

でも楽しめたという意味では話よりもキャラクターの濃さによるだろうな。
アクダマ7人、詐欺師、運び屋、医者、チンピラ、喧嘩屋、ハッカー、殺人鬼。それぞれ個性、秀でた能力が異なり、協力して立ち回る物語前半においては様々な局面にそれぞれ得意な奴が対応できる、というのは都合の良い話だと思うけれど、各々根本の人間性にクセもあってそれが弱点にもなり退場する理由にも繋がったり、一人ひとりがとてもおもしろかった。

運び屋は行動も言動も必要最小限、言葉少なで静かだけど強い。梅原裕一郎が声優ということで、ほぼゴブリンスレイヤーさんだった*2。戦闘機もビルもなぎ倒せるレールガンを備えたバイクは卑怯だと思った(処刑課目線)。
医者は、緒方恵美がシンジ臭を全く匂わせない芝居をしていて驚いた。まったくもって危険な女でしかなく、キャストクレジットを何度見ても半ば信じられない感覚が拭えなかった。
ほか、喧嘩屋は肉弾担当、ハッカーは頭脳電脳担当、チンピラは賑やかし、殺人鬼は掻き回しと、この手の作品で話をおもしろく転がすのに必要な人材を揃えたんだなと。

主人公、一般人=詐欺師。黒沢ともよ
好きな声優さんだがここでは、役に合った芝居をしていらっしゃるなーくらいで他に特別思うことはなかった。成り行き上「詐欺師」を自称したところから、話の流れで徐々にリアル詐欺師に成り上がってしまうのが面白かった。
あと不老不死の少年・兄、内田真礼
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった...*3」の主役カタリナの脳内会議にて性格の異なる5キャラを演じ分けていたが、ここで聴く少年声はそのどれとも異なるものだった。少年役常連の緒方恵美と好対象な役になっているのもおもしろい。

以上のキャラクターたちの逃走劇とは別に、作品の主題はたぶん「悪とは何か」ということだったと思う。同時に「正義とは何か」でもある。
アクダマたちを殺しにくる処刑課の人間たちが、殺意をむき出しにした攻撃を行うことでアクダマたちと変わらないものになったり、そのことを自覚した上での正義があったり、アクダマを制止できない処刑課に憤った民衆が暴徒と化し、その暴徒がアクダマと認定され処刑されたり、など物語後半では善悪の在り処が入れ替わったり判然としなくなったりする。
視聴者的には「アクダマ」たちは主役であり、主役は基本「正義」として描かれるものであり、正義の名のもとに圧力や罰を行使する処刑課の人間の顔は悪人面にしか見えない。
作中一番の巨悪を探すとするなら、「悪い奴ほどよく眠る」ということで、処刑課の上層部、またはそれすらも牛耳る劇中では見えざる国家、「カントウ」に内在されていると思われる政権首脳陣だと思う。こんな国にした奴こそが悪の元凶。
正義の在り処に振り回され、それぞれに誰かを攻撃せずにはいられなかった登場人物たちは皆(殺人鬼も?)たぶん善人だったのではないかと。相打ちに倒れた喧嘩屋と処刑課師匠はその象徴だったような気がする。
なんて、これ以上は難しくて脳が追いつかず文章にできない。

毎回入る世界観解説の教育テレビ風映像も悪趣味、皮肉、ブラック色々入っていてよかった。
各話サブタイトルが古い映画のタイトルを引用していて、「THE SHINING」など内容も相当オマージュしたような回もあったっけ。
あと全体のベースが犯罪者による反体制の話で、結末として主人公たちが生き残らないバッドエンドということで、アメリカンニューシネマ系の作風でもあったというのも良かった。
等々、他にも書き逃していることが幾らかある気がするけどまとまらない。

とにかくかなり良かった。2020 年秋アニメ、これが逆転優勝かも。

*1:正確には主人公の一般人=詐欺師は元々凶悪犯ではない。わかってる。

*2:そういえば全員固有名が無く、職種や肩書きが役名というのも「ゴブリンスレイヤー」と同じだ。

*3:略さず書きたい。