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池袋ウエストゲートパーク

全 12 話。
Gボーイズという青い服装の俗に言うチーマーが界隈の若者を取り仕切る池袋西口方面。それとは別にもうひとつ、赤い集団=レッドエンジェルズも現れ、両者はやや緊張状態にあった。
町のフルーツ屋、真島青果店の一人息子、真島マコトはこの付近のトラブルシューターとして、Gボーイズからもレッドエンジェルズからも一目置かれる存在。両組織間で起こる問題や、警察沙汰や民事事件に一歩手前の問題、その他町のひとからの依頼を受け、日夜池袋中を奔走する日々で・・・、といった話。

このアニメについてまずは何をおいても、2000 年の実写ドラマ版のことはきっぱりと切り離して観なければいけない。最も大きな違いは登場人物の違い。主人公マコトからして人格がまるで違う。また脇を固めるレギュラーキャラも異なり、実写版のマコトの仲間だったキャラのほとんどがここにはいない。各キャラの言葉遣い、台詞回し、風貌や出で立ちのクセもない。

同じ材料を使ってザクザク切り刻んで香辛料を中心に素材の味をぶっ飛ばす調味料を加えまくってジャンクフードにしたのが実写版。それに比べると、いや別物と考えるなら比べることすら憚られるけども、こちらはわりとお行儀よく、同じ映像作品として並べてみた場合、刺激的な要素は目立たない(無いとは言わない)。OP / ED は別として、劇中 BGM はふつうのアニメ程度、妙な SE を伴った派手なカット割りや背景小ネタを無駄に入れ込む堤幸彦技法なども無く、なんなら実写版のみならず他のアニメと比べてもおとなしいとさえ映るところもある。

アマゾンレビューで酷評が並んでいるのは主にこの違いの指摘であり、言ってしまえば「実写ドラマ版と同設定のアニメ化ではない」ことに裏切られたという、恐らくアニメ制作陣にとってはある程度予想はしつつも心外にしか感じられない意見ばかりだったと思う。不幸と言えば不幸だが、例えば前期の「富豪刑事 Balance: UNLIMITED」のように、実写版とは別作品であることが分かるタイトルに変えるなどの手はあったと思う。実写版と違うという批判を予想しながらそういった対策を考慮しなかったのであればアニメ側の自業自得な面もある。予想した上で尚そのままのタイトルでよしとしたのであれば大した根性。

で、純粋に一本のアニメとしてどうだったか。
自分も最初は実写版との違い、違和感に拒否反応を示したくちで、前半話数はあまり肯定的に観ていなかった。それでも次第に許容できるようになり、最終的にまともな作品だと理解できるようになったのは、脚本、作画、演出のいずれも堅実で誠実なつくりだったからだと思う。不良少年たち、と呼べる奴らを描いている作品で誠実というのは妙な感覚だけど、主人公たち=マコトやタカシらの言動や思考はとても真面目だから必然的にそうなるのだと思う。
池袋という町とか「チーマー」という言葉に対するイメージや、拭いきれない実写版の印象が不良的先入観を与え、だからこそビジュアル的刺激が薄味だと「これじゃない」と言われるのだろうけど、作品本位に忠実にやろうとすると本来こうなる原作なのかもしれない。読んだことないので知らないけど。

そういったことで言えば、声優陣および声の演出はちょっと真面目すぎると思った。オラオラ系でやる必要はないけど、マコトもタカシも不良感ゼロ。かたやトラブルシューター、かたやチームのリーダーという立場だからと言っても、池袋が舞台ではむしろ説得力にはなりづらいと感じた。2020 年現在の不良少年はそういうものなのかな、と無理矢理納得して観ていた。
各話で扱っているテーマには時事性のある社会問題が少なくなかったので、それをふざけたキャラクターが語ってはそれこそ説得力に欠ける、ということもあったのかな。しかしそういう重い問題を扱うわりには解決のしかたが若干乱暴というかふざけ気味に思えるところがあり、そんな結末では真面目な登場人物たちが馬鹿に見えるじゃないか、などと思うこともあった。

実写版との意図的な差別化もあったんだろう。
けどもその点は一番納得がいかない。差別化、別作品として見せながら、ちょこちょこ実写版の要素を入れてくるのはなんなんだ、と軽く憤りをおぼえたりもした。最たるところでは最終話最後の窪塚洋介出演、それはサービス&最終話祝辞として有りだとしても、清春が「忘却の空」を歌った特殊 ED や、OP の回転する林檎などはもろに実写版由来のもので、ファンサービスとしては喜ぶべき点だろうけども前提としてその実写版ファンを切り捨てているはずなので理解に苦しんだ。実写版を引き合いに出して批判するならこの点を指摘するべきだと思う。
結局実写版を絡めた話になってしまった。しゃーない。

結論として、特別ここが良い、すごかったというところは無かったけども、毎回ちゃんと観ていられた。実写版とは切り離して考えたいが、どうしても切り離せない。可能なら実写版を知らずに観たかった。とは言えそこまで言うほどのものでもなく。

多くの批判もレビューの星や評点のように数値化されることで、軽はずみに手を出すような客は寄りにくくなりコアなアニメ視聴者だけが残り、結果としてより純粋な評価が顕れてくる、ということもあるだろう。「池袋ウエストゲートパーク」のタイトルを冠して実写版ファンを突き放したこの作品が、内容通りに誠実に評価されるといいと思う。
そういえば実写版 DVD を買って持っていたけど、いつだか観たら寒くて十年くらい前に売り払ったんだった。一般に記憶に残るのは実写版の方だろうけど、二十年後にも全話の鑑賞に堪えうるのはこちらなんじゃないかな。