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憂国のモリアーティ

分割2クール、合計全 24 話。
ロンドンにて孤児、貧民層に生まれ、幼くして身分制度に憤りを覚え、貴族の義兄と意気投合し社会粛清的な闇稼業を始め、やがて大規模な貴族社会への反乱を目論む「犯罪卿」となったウィリアム・ジェームズ・モリアーティとその兄弟の話。
モリアーティ一味の生い立ち、ファミリーでの仕事、そいつらを捜査する探偵シャーロック・ホームズの登場、ウィリアムとシャーロックの出会いから対決まで。

推理小説に限らず小説の類をほぼ読まないし、過去にも数える程度しか読んだことがないくらい活字文化に疎い自分には、シャーロック・ホームズのことですら名前と「探偵、だっけ」くらいのうっすらとした知識しかない。知識でもない。
「モリアーティ」となると少し前にあったアニメ「歌舞伎町シャーロック」で初めて知った名前かも、くらいにまで何も知らなかった。そんな自分でも全く問題なく楽しめるくらい、とてもよくできた作品だった。

1クール目、最初は何が始まったのかよくは理解できなかった。ひとまず三人の子供がモリアーティの三兄弟になるまでの話はわかったが、最終的にどこに行く作品なのかは全く読めないまま、でも語り口の上品さと冷徹さと理解しやすく演出された話のおもしろさに見入って行き、結果的にそこそこハマるくらい楽しめた。

話と展開の巧さ、洒落た台詞回し、皮肉を効かせた言葉のやりとりはもちろん、それをスカした美男キャラたちが極々クールに交わし合っても全然嫌味なく観られたのは、声優の芝居や演出の力もそれなりにあったろうけど、要因としてはやっぱり原作の力の方がでかいんじゃないかと思う。
主人公のウィリアムからして単体だとかなり嫌味ったらしく鼻につく奴であるはずなのに、話の流れに対しての他のキャラとの対比、位置関係によってか全然イラッとも来ない、どころか恐らく原作者や制作側の狙い通りに、かっこよくて底知れない恐ろしさを感じるほどだった。
またシャーロックにしても、2クール目から参加するボンドにしても、同じく一見やな感じなのに、登場話が終わる頃には不思議と好感が持てるようになっていたり。逆に一見悪くないはずのワトソンやその他凡人キャラの存在がかったるく思えたり。
キャラ紹介や登場出番の順序立てとか、人物相関における立ち位置の差異、無闇に発言しない必要最低限の台詞量なんかまで、凄くデリケートに考え抜かれているように感じた。

ロンドンという舞台も、豪華客船とか列車とかサスペンスに付き物の背景設定も、オペラや管弦楽中心の音楽も、全部隙がなくて作品世界を盛り立てることに抜け目がなかった。
また、悪役が典型的に薄汚かったり小悪党ぶりを遺憾なく発揮していたり、「キャッチミーイフユーキャン」の決め台詞をここでこの調子で恥ずかしげもなく言うか!みたいなベタな要素がたまに入ってくるのもよかった。

原典シャーロック・ホームズ推理小説好きにどう批評されるものか知らないが、元ネタを知らない自分はわりと手放しで称賛できる。完璧な計画性と実行力を持つウィリアムがこのアニメそのもの。まで言うのは過言。
敢えて欠点を挙げるとするなら、好みの声優が全然参加していないことくらいだけど、劇が良いと結果としては誰でもかまわんね、ってことになる。

モリアーティの周到な計画の上で探偵ごっこをやらされ踊らされ続けるシャーロックって構図の推理話をもっと観たかったけど、この結末では続きは無いか。