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シャドーハウス

全 13 話。
霧に包まれた暗い洋館に暮らす、衣服以外が真っ黒な存在「シャドー」と、その世話係で普通の人間ぽい「生き人形」のペアたちの謎を巡る話。
生き人形の少女エミリコは自分が付き従うシャドーの少女ケイトの世話をする中で、シャドーたちが出し日々部屋や館中を染めていく「すす」のことやシャドーと生き人形の関係性、さらには館=シャドーハウス全体のこと、その主である「おじいさま」のこと等々に度々疑問を持つ。が、生き人形がそのような「余計なこと」を考えるのはご法度。ケイトはそんなエミリコを何かと不安に思っていた。
未熟で不慣れなハウスでの暮らしの中で幾つか問題行動を起こしつつも、次第にお互いを理解し仲を深めていくケイトとエミリコ。やがて正式にシャドーとしてハウスに迎えられるための儀式「お披露目」の日がやってくる。といった話。

原作知らず、事前情報を一切入れずに観るのは、どんな作品であっても毎回が賭けで、特にこの作品のように掴みどころの不鮮明な、曖昧な情報ばかりが波で押し寄せてくる作品は「1話切りか否か」の判断にすごく困る。
絵は美少女可愛い系、雰囲気は明るめだけど怪しい、ギャグではない、推理もののようでサスペンス風味ですぐにでも誰か死にそうだけど、いやしかしただただわからない。以上の中にはっきり好みの要素はなく、元より自分の好む要素が何なのか把握できいないので何でもいいっちゃいいけども、というなかで有りか無しかを判断する最終的なポイントは、勘しかない。
この作品は初見時、エミリコの過剰な明るい演技に気味悪さしか感じなかったが、1話を観終える頃にはそれを通り越して「エミリコかわいい」になっていて、話は全くわからないけど何かある、観ておくべき点が何か、と漠然と思っていた。話、劇としての内容もさることながら、ED の入り方、ED 主題歌の歌詞にすごく惹かれるものがあった気がする。

そして結果的にその勘は全部に対して当たりだった。観ておいて間違いのない作品だった。今期、他に陽の目を浴びていた作品が幾つかあったので、この作品は内容に違わず日陰の存在になってはいたが、個人的にはかなり高評価に値するものだった。

文頭にあらましを適当にまとめたこの話、というか原作、考えれば考えるほどものすごいと思う。シャドーが何なのか、生き人形が何なのか、シャドーハウスが何なのか、については劇中中盤話数で概ね明かされるけれども、辻褄に納得はできてもなんなんだよそれって話で。シャドーの元の素はなんなんだよ、シャドーハウスに反乱したとしてここを出てどこへ行くんだよ、どこへ帰るんだよ、ってことを考え出すとまた意味がわからなくなるし。そこらへんも原作読めばわかるんだろうけど、わかったところでなー、それはきっと話の筋を知るってことでしかないし。

思うのは、本当に知りたいのは、それでなんでこんな理不尽な世界の話になるのか、ってところ。なんでってそりゃー、おもしろい話を作者が考え抜いた結果だろ。ってことでしかないし、おもしろがってもらえるように考えられた理不尽な話を作り手の想定通りにおもしろがった客が自分、ってことでしかない。
もうちょっと突き詰めると、作者の中にこんな影が際立つような、影にスポットライトを当てたいような衝動的な何かがあって、影ってのは当然なんらか暗い物事や感覚の比喩なわけで、それが明るい顔の部分を隷属させているって関係性もきっと重要な部分で...、これ以上は上手く言葉にできないけども、視聴してそこらへんに反応している自分の中にも同じような何かがきっとあって、有り体に謂えばトラウマとかなんとか、でもそんなわかりやすいものじゃない気はするけど、つまりはこの作品全体に感じるある種の「闇」の感覚はそういうところで、気味悪くもありそこに惹かれてもいたんだと思う。

その、作品全体で醸す、「影」や「闇」や「光」の加減による世界観構築の徹底ぶりもすごかった。「お影様」ことシャドーの、どんなに光が当たっても明暗の度合いがどこも一片たりとも変わらない強烈な黒ベタ塗り潰し、その造形美とも言うべきデザインがなによりすばらしい。
それとは別にキャラクターの配置や声優の組み合わせも、完全に絵の空気と一体化した音楽、その足し引きや間も、もちろんそこに乗る芝居も、全部が全部を引き立てながらはまっていたと思う。音のリズムにリンク(シンク)する芝居、みたいなこととは全然違う話で、舞台外の情報が劇を邪魔しない、演者の中身や使われた技術的云々を意識させない、この中だけでできあがった世界を無人カメラの視点で観ているような感覚。わけわからんけどえらいことやっとんなー、という視点から一秒も外させない、そんなような力を感じることが多々あった。

最終回、13 話の終わり方もよかった。
ケイト&エミリコ+お披露目同期たちの話としては消化不良なとこもあったけども、最後はこのあとどうなったかのダイジェストなのか何なのか、色々カットを繋いでいってまた新たな子供が出てきて。つまり主人公たちは目立ったことを幾らかやらかしてきたけども、それを踏みつける先輩共もいたけども、そういうの全部ひっくるめてこのハウスでの日常茶飯事ですよ、これがこのハウスですよっていうまとめ方。本当にきれいにパッケージされた感があって、良かった。良かったとしか言いようがない。
汽車が走り去るラストというのがまた良くて、自分の好きな古い映画の手法のようで、その後特殊 ED ではないいつもの ED もちゃんと欠かすことなく、最後の最後までツボを突いてくる作品だった。

エミリコ&ケイト、気に入ったので続編が観たい。
フィギュアが欲しいとまで思ったキャラクターは初めてかも。でもクソ高い。
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